コンジョイント分析とは?
社会科学分野において注目を集める最先端の分析手法
弊社CSOの山本は、コンジョイント分析を因果推論の考え方を用いた手法に発展させ、政治学を中心に数多くの学術分野において人びとの選好を推定する方法として注目を集めています。山本の執筆した論文は、これまでに世界各国の研究者から17,000回以上引用されています(2025年10月時点、Google Scholarによるカウント)。これは日本国内の社会科学研究者として並外れて大きな数字であり、学術界における大きな影響力を示しています。
コンジョイント分析は、様々な「属性」がもつ「水準」のうち、人々がどのような水準の組み合わせを好むのかを統計的に分析する調査方法です。
例えば、移民の属性がいかに米国への受け入れ支持を形成するかに焦点を当ててコンジョイント分析を行うとします。この場合、移民の「米国への過去の渡航歴」、「申請理由」、「出身国」などは「属性」にあたり、「出身国」の「メキシコ」「イラク」などは「水準」にあたります。
コンジョイント分析では、様々な属性がもつ水準をいったんバラバラにし、ランダムに組み替えた状態の仮想の選択肢(プロファイル)をつくります。そして、これらを回答者に比較検討してもらう作業を通じて、各属性が選択に与える影響を推定します。
再び移民の例を用いて説明すれば、以下の図に示すような複数の属性を組み合わせた「仮想の移民」1・2のプロファイルを提示します。
回答者は、以下のように仮想のプロファイルの選択を繰り返し回答します。
コンジョイント分析では、回答者に提示されるプロファイルの内容がランダムに決定されるため、各属性の効果を他の条件と独立させて厳密に推定することが可能となります。これにより、特定の要素やその組み合わせが選好に与える因果的な影響を測定できる点が特徴です。
このとき、各属性の水準が選好に及ぼす平均的な影響は、AMCE(Average Marginal Component Effect)と呼ばれる指標として表されます。AMCEは、ある属性の1つの水準を他の条件とは独立して変化させたときに、選ばれる確率が平均してどれだけ変化するかを示します。言い換えれば、ある条件の「有無」によって人びとの判断がどのように変わるかを明確に示すものです。例えば上記の移民の例で言えば、「メキシコからの移民に比べて、ドイツからの移民のほうが平均X%ポイントより高い確率で受け入れられる」などの推定結果が得られます。
また、複数の属性の水準からなる特定の組み合わせが判断に影響を及ぼすこともあります。そのような属性間の相互作用を示すのが、ACIE(Average Component Interaction Effect)と呼ばれる指標です。例えば、学歴の影響は、特定の職業の移民に対する受け入れ支持にのみ有意に働くかもしれません。
これらのような様々な分析手法により、複雑な選択の中で、どの要素が人びとの意思決定にとって重要なのかを、統計的に裏付けられた形で把握することが可能になります。
コンジョイント分析には、従来の意識調査や他の調査手法と比べて、複数の利点があります。
① 各要素やその組み合わせの独立な効果(因果効果)がわかる
実世界の選択においては、いろいろな要素が互いに結びついているため、ある要素が選択と相関していたとしてもそれが本当の因果関係を示しているのかがわかりません。一方コンジョイント分析では、要素を分解してランダムに組み合わせるため、それぞれの要素やその特定の組み合わせが意思決定に与える独立な影響を測定することができます。
例えば、実世界で、A国からの移民よりもB国からの移民のほうが好まれる傾向が見られたとします。しかしそれは、A国そのものに対するネガティブな選好のせいとは限りません。もしかすると、A国からの移民の教育水準や語学能力が低い傾向にあるせいかもしれないのです。コンジョイント分析を用いることで、これらの相関し合う要因それぞれの独立な影響、すなわち因果効果を推定することが可能になります。
② 複数要因間の相対的な重要性を明確に評価
選択において好ましいと思われる要素の多くは、実世界ではトレード・オフの関係にあります。例えば、賃貸物件の選択においては、交通の利便性が高い物件のほうが賃料も高くなるでしょう。このような相反する要素を含む複雑な選択を分析するうえで、一問一答形式や複数回答形式を用いた従来型の意識調査はあまり適していません。
コンジョイント分析では、要素間のトレード・オフを設問形式の一部として直接用いているため、回答者が相反する要素のうち一体どれをどのくらいの重みで考慮しているのかを推定することができます。
③ 数多くの要因の同時検証が低コストで可能
複雑な選択に絡む数多くの要因についてそれぞれの独立な効果を測定したい場合、通常は一つ一つの要因についてA/Bテストなどのランダム化比較実験(RCT)を実施する必要があります。このような調査には当然多くのコストが掛かります。
コンジョイント分析では、複数の属性を1つのプロファイルの中に組み込んだうえで、その間の仮想選択タスクをそれぞれの回答者に繰り返して回答させます。そのため、1回の調査から複数の要因についての情報を一度にたくさん得ることができます。そのため、コンジョイント分析を用いることで、効率的に多数の仮説を同時に検証することが可能となるのです。
④ 現実の選択により近い設計のため信頼性が高い
調査分析については、回答内容と実世界での行動が必ずしも一致しないという問題点がよく指摘されます。例えばランチのお店に何料理を選びたいですか?と漠然と質問しても、その時の気分や直近に食べたものに無意識のうちに影響された回答しか返ってこないかもしれません。そのような調査から得られた結果を市場調査に用いたとしても、期待するような成果はきっと得られないでしょう。
コンジョイント分析をこれに用いるとしたら、料理の種類の他に、価格帯・店の評判・雰囲気などの要素も組み合わせたうえで、「もしあなたがランチに行くとしたら、どちらのお店を選びますか?」という仮想の選択について質問します。回答者は、実世界での同様の状況を想像しながら回答を行います。このような調査からは、実際の行動データとより整合的な結果が得られるということが、研究で証明されています。
⑤ 回答回数を多くしてもデータの質が低くなりにくい
広く用いられている意識調査や適性診断には、100問以上の質問項目を含むものも珍しくありません。そのため、同じような形式のたくさんの質問に回答者が疲れてしまい、データの質が低下する可能性が問題点として指摘されてきました。
コンジョイント分析でも、同形式の設問への回答を繰り返し行うことが求められます。しかし、実世界の状況を模した仮想の選択という形式を取ることで、回答者はあまり飽きることなく回答を続けられます。まるでゲームのような感覚になったという回答者の感想もよく見られます。実際に、繰り返し回数が重なってもデータとしての質はほとんど落ちることがないということが過去の研究で実証されています。
⑥「社会的望ましさバイアス」や戦略的回答を抑制
従来の調査分析でしばしば問題になるのが、センシティブな内容に関する回答です。回答者は、意識的にせよ無意識的にせよ、自分の回答が他人から見てより望ましいものに映るように本音を曲げてしまう傾向があります。また、例えば就職活動における意識調査などでは、企業側から見て理想的な志望者に映るような回答を戦略的に行おうという意識も働きがちです。
このような回答の偏りは「社会的望ましさバイアス」と呼ばれますが、コンジョイント分析はそのようなバイアスを抑制する手法として研究者の間で有力視されています。センシティブな項目を複数の要素のなかに紛れ込ませることで、回答者の意識の偏りをそらし、本音を引き出すことができるからです。
